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◇ 投稿記事 ◇ 7N4LXB  -67-    
IC-7000の修理  
1.「修理不能」のIC-7000が運ばれてきた
 今回は電源の逆接続事故のあったIC-7000の修理をしまし
たので、その経緯を報告します。

IC-7000は2005年頃にiCOMから発売されたオールバンド、オールモード機であり(写真1)、モービル機サイズに多くの機能が詰め込まれているので、内部は微細な作りになっています(写真2)。

一方、従来のトランシーバで大きなスペースを占めていた変復調部はDSPの採用で、マイコン基板の裏面にコンパクトに収まっています。

   【写真1】:IC-7000外観

【写真2】IC-7000内部 (左:メイン基板 右:PA基板) <拡大

 このような構成のIC-7000ですが、あるYBQメンバー局でうっかり逆接続してしまい、発煙して電源も入らなくなったとのこと。iCOMのリペアセンターに送ったが、修理不能として返却されたので、見てほしいと運ばれてきました。

iCOMでの修理不能の見解は以下のように説明されていました。

●内部点検の結果、PAユニットの電源ラインの焼損と、各部品に逆方向電圧が加わったため故障個所が多岐に渡っている
●動作保証するには全ユニットの交換が必要
●修理不能として現状のまま返却

 この説明から、内部は余程ひどい状態になっているものと思いましたが、メーカで修理不能と判断する損傷とはどのような状態かを知ること、また運が良ければ直せるかもしれないので、ダメ元でまずは中を見てみることにしました。
2.トラブルシューティングの方針
 焼損している箇所は目視で確認できますが、逆電圧で内部破壊している部品は外観からは分かりません。うかつに電源を加えると更に損傷範囲を拡大させてしまう恐れがあるので、まずはサービスマニュアルを入手し、電源系統を理解することから始めました。
サービスマニュアルは「IC-7000 schematics」でインターネット検索すると簡単に見つかりました[1]。

 サービスマニュアルで電源系統を追っていく際には、14枚もある回路図からではなく、全体像が把握できるブロック図を使用しました。

図1のように13.8Vの電源コネクタ(赤い〇印)から配線が分岐し、レギュレータで降圧されながら各種電源が作られる流れにマーカで線を引きながら追っていき、詳細な回路構成を知りたい時のみに回路図を参照するようにしました。

【図1】IC-7000ブロック図

電源系統に着目した配線を書き直すと図2の電源系統図のようになります。
3.電源系統図から損傷範囲の推定
 13.8Vの逆電圧を加えた場合、図2から逆電圧が直接加わる部品は、逆接防止ダイオードD1、D2、電解コンデンサーC1、HF終段MOSFET Q1、Q2、VHF終段MOSFET Q3、UHF終段MOSFET Q4、ドライバー段のQ5、H8マイコン電源用3.3VレギュレータIC1であることが分かりました。

一方、その他の電源系統にはリレーRL1がONにならない限り逆電圧は加わりません。RL1がONになるには、H8マイコンがRL1をONにするリレー制御信号POWSを発する必要があり、そのためにはH8マイコンが正常に起動し、さらにパネルの電源スイッチが押されたのを検出する必要があります。

逆接続が発生した際の状況を想像すると、H8マイコンには正しい電源電圧(3.3V)が供給されないため、起動できていないものと想像されます。

よってRL1はONにはなっておらず、図2の背景色なしの電源系統につながる回路は損傷を受けていないものと推測されました。

以上から、損傷を疑う部品は以下に限定されるのではないかと考えました。

(1)逆接防止ダイオードD1、D2
(2)電解コンデンサーC1
(3)HF終段MOSFET Q1、Q2
(4)VHF終段MOSFET Q3
(5)UHF終段MOSFET Q4
(6)ドライバー段 Q5
(7)H8マイコン電源用3.3VレギュレータIC1 (および IC1が破壊し出力に逆電圧が漏れていたらH8マイコン)
4.損傷有無の確認と結果
(1)逆接防止ダイオードD1、D2
 目視でD1が焼損しているので損傷はすぐに分かりました。ここではD1が短絡状態で故障しているか開放状態で故障しているかが問題です。

13.8V電源コネクタから見た内部抵抗は0Ωでしたので、D1が短絡故障ならばD1の損傷のみで他に損傷は及んでいないことが期待できますが、開放故障なら他に損傷を受けている部品があることになります。これにはD1を取り外して内部抵抗を測定するしかありません。

 D1を取り外すにはPA基板を筐体から外す必要があります。これには、2つのMコネクタ、ドライバーモジュール基板のハンダ付け箇所を外し、終段MOSFETの取り付けネジを外す作業をしてダイオード取り付け面を出します(写真3の青〇がコネクタや基板の接続箇所)。

損傷ダイオード(DSA3A1 電流容量3A)を取り外し、損傷したパタン面にハンダを盛り補修した後に代替ダイオード(1N5402 電流容量3A)を取り付けました(写真4)。損傷ダイオードを取り除いた後の内部抵抗を測定したところ数kΩの抵抗値を示しましたので、他に損傷が及んでいないことの期待が持てました。

【写真3】取り外したPA基板と焼損個所

【写真4】焼損箇所とダイオード交換<拡大

(2)電解コンデンサーC1
図2ではC1と単純化して表現していますが、13.8Vのラインに接続する電解コンデンサーは複数あります。そのすべてにおいて膨れや液漏れは確認されず、テスターのリード棒をあてると正常に充電される様子が確認できましたので、「おそらく損傷なし」としました。

(3)~(6)終段MOSFET、ドライバー段
ソース、ドレイン間抵抗がある程度の高抵抗値を示しているので、「おそらく損傷なし」としました。

(7)H8マイコン電源用3.3VレギュレータIC1
IN-GND間、IN-OUT間もある程度の高抵抗値を示しているので、「おそらく損傷なし」と判断しましたが、実際にはそろりと電源電圧を加えて確認することにしました。

実験用安定化電源を使用して13.8Vコネクタから電流値に注意しながら徐々に加える電圧を上げていき(3V→13.8V)、異常な電流が流れないことを確認しました(電流値は10~20mAのままでした)。

この時のH8マイコンの電源電圧を作っている3.3Vレギュレータの出力電圧は正常であり、レギュレータには損傷がないようでした。

もしマイコンにも損傷がなければ、起動して電源スイッチの待機状態になっているはずです。上記10~20mAの電流値は、マイコン動作時の電流値としては妥当な値と思いました。

5.マイコン起動と受信動作の確認
 次にパネルの電源スイッチを押してRL1をONにします。これですべての回路に電源が供給されるようになります(ここが本作業の中で一番ドキドキする瞬間です)。

ところが電源スイッチをONにすると、ドカンといきなり大電流が流れ、実験用安定化電源(KIKUSUI製、0~18V、2A)の電流制限機能により電源供給が止まりました。

最初どこかでショートしていると思いましたが、IC-7000の仕様を調べてみると受信時には1.3Aの電流が流れるとありました。そこで電流制限を2Aに上げると、IC-7000の表示パネルに起動画面が表示され、マイコンが正常に起動することが分かりました。
さらに、受信動作もHF、VHF、UHFですべて正常であることが確認できました。IC-7000は受信だけでもかなりの大食いです。

6.送信動作の確認 
 最後に、安定化電源を数十A電流が流せるトランシーバ用のもの(DAIWA製、30A)に交換して、直接逆電圧がかかった終段MOSFETやドライバー段の動作を確認しました。

結果は、HF(7MHzで20W出力に設定)、VHF(144MHzで50Wに設定)、UHF(430MHzで35Wに設定)において、設定値通りの出力が得られることが確認できました(写真5)(写真6)(写真7)。

余裕のあるMOSFETが使用されていることや、やはりMOSFETはバイポーラに比べタフであることが生存につながったのかもしれません。

【写真5】7MHz 20W 送信状況

【写真6】144MHz 50W 送信状況

【写真7】430MHz 35W 送信状況
7.おわりに
今回メーカが修理不能としたトランシーバの修理をして分かったことは、意外と修理可能な場合があることです。ダメもとで修理にトライしてみる価値はあると思います。

その場合には、各所の導通有無、抵抗値、漏れてくる信号など修理対象をよく観察し、サービスマニュアルを入手してブロック図、回路図上で電流や信号などの流れを想像し、故障個所を絞り込んだ上で修理作業にとりかかることが大切と思います。

今回のメーカ判断では、単に裏ブタをはぐって焼損した箇所を確認した程度で修理不能と判断された様子でした。実際にはダイオード1本の焼損と、周りのパターンの若干の損傷のみで、故障個所が多岐に渡っているようなことはありませんでした。

なお、最近のトランシーバは、作りが微細なので、何度も分解、組み立てができないことが難点で、そのうちフレキシブルケーブルが千切れてしまいます。また、両面基板なので基板上で回路が追いにくいことも修理を難しくしています。
<参照URL>
[1]IC-7000 サービスマニュアル https://www.manualslib.com/manual/739778/Icom-Ic-7000.html
  【2022.04.23 7N4LXB 池田 記】

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