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ゲルマニウムトランジスタを使用した6石スーパーの製作  
1.ゲルマTrラジオ製作開始
 ジャンク市でもらった昔懐かしい金属缶入りゲルマTr(写真1)を眺めていると、子供の頃家にあったゲルマTrのポケットラジオを思い出し、同じようなものが作れないかと思いました。それはナショナル製でゲルマTrを6個使用し、9V積層電池で動作するものでした。今回はNi-MH電池2本の2.4Vで動作させようと思い、ネットで参考となる回路図を探しましたが、6V~9V動作のものしかなく、2.4Vに近い3V動作のものは見つかりませんでした。そこでネット上の9V動作の回路を参考に、バイアス回路を変更し、試行錯誤しながら2.4Vで動作するようにしました。

【写真1】ゲルマTr
2.再設計方法
 参考にした回路は、標準的な6石スーパーの構成であり、初段はエミッタ注入式の自励式コンバータ、2、3段目はAGC付きのIF増幅器、ゲルマダイオードによる検波器、4段目はAF電圧増幅器、5段目はB級プッシュプルの電力増幅器となっています。

 現在慣れ親しんでいるNPN型のシリコンTrによる回路との大きな違いは、電源は負電圧を与える(GND側が電池の+になる)ことと、Trのベース、エミッタ間電圧Vbeが約-0.2V(シリコンTrは約0.6V)となることです(写真2:Trテスタでの測定結果ではVbeが-159mV)。これらのことを念頭に、参考にする回路で使用している抵抗値から、各段のエミッタ電流を計算すると、以下のようになりました。各段の直流等価回路、および各段のエミッタ電流ieの計算式は図1に示すようになります。これに合わせて各段にバイアスを与えるための分圧抵抗R1、R2に流すブリーダー電流ibも計算します。

【写真2】Vf測定



<図1>直流設計法


 各段の計算結果は以下のようになりました。

(1)初段エミッタ電流は約300uA、ブリーダー電流は約200uA
(2)2段目エミッタ電流は約500uA(AGC電圧が発生しないとき)、ブリーダー電流は約100uA
(3)3段目エミッタ電流は約1mA、ブリーダー電流は約300uA
(4)4段目エミッタ電流は約1mA、ブリーダー電流は約300uA
(5)5段目エミッタ電流は約3mA、ブリーダー電流は約1.2mA

 各段ゲルマTrの動作条件は大体上記になるものとして、電源電圧2.4~3Vとした時、各段について、このような電流値になるように、抵抗値R1、R2、R3を手持ちの抵抗により決定することにしました。


3.基板の作成
 100円ショップの適当なプラケースに収まるように基板のサイズを65×50mmとしました。配線パタンは生基板をカッターでけがき、パタン間の銅箔をニッパーで剥がす方法で作成しました。反省点としては、IF部の部品配置はアンテナコイルから直線的に2段目、3段目、検波部と離れていくようにするのがよいのですが、AF部のパタンを先に作ってしまったため、直線でなく折り返す配置になってしまったことです。部品配置が悪いと出力が入力部に回り込んで発振しやすくなり、ゲインを上げることができず、感度が悪くなってしまいます。作成した基板を写真3に示します。

【写真3】作成した基板

 部品は、ジャンク市で入手したゲルマTr(2SA101、2SB54)、手持ちのゲルマTr(2SA100、2SB263)、100円ラジオから取ったアンテナコイル、発振コイル、IFT等、すべて手持ちの部品やジャンクを使いました。例えば、手持ちに白コアのIFTがないため代わりに黄コアのものを使ったり、スピーカーに32Ωのものを使いました。

4.組み立てと動作確認
 まず4段目、5段目のAF部を組み立て、動作確認しました。各段のエミッタ電流もほぼ計算通りとなり、オーディオ信号を入れると正常に拡声動作することを確認しました。

 次に、1段目のコンバータを組み立てました。バリコンで発振周波数を1から2MHzまで可変にできるはずでしたが、全く発振しませんでした。エミッター電流を増加させるなどしてみましたがダメなので、発振コイルからの帰還信号をエミッターではなくベースに戻すように変更したところ発振するようになりました。

 2、3段目のIF増幅部は1段目とは逆に発振してしまい、全く受信できない状態でした。試行錯誤により、3段目のエミッタ電流を減少させること、2段目負荷の白IFTの共振回路をダンピングすることで発振が止まることが分かりました。3段目のエミッタ電流は800uAまで減少させ、2段目負荷の共振回路に10KΩを並列に入れるとやっと放送が聞こえてくるようになりました。最終的な回路図を図2に、完成した基板の様子を写真4に示します。

<図2>回路図 -拡大-


【写真4】完成した基板

5.調整
 動作確認までは数局放送が受信できる状態でしたが、全受信周波数に渡って受信できるように調整しました。

(1)IF段の調整
 中間周波数である455KHzの信号を最も感度良く増幅できるように、3つのIFT(黄コア、白コア(今回は黄コアを代用)、黒コア)を調整しました。入手したばかりのTinySAのSGモードを使用し、1KHzのトーンでAM変調した455KHzの信号を黄コアIFTの近くで出力させて、1KHzのトーンがスピーカから最も大きく聞こえるように各コアを回し固定します(写真5)。

(2)トラッキング調整
 まずバリコンを左に回し切りダイヤルを530KHzに合わせ、TinySAで1KHzのトーンが載った530KHzの信号を出力します。このトーンが受信できるように発振コイル(赤コア)を回し固定します。次にバリコンを右に回し切りダイヤルを1600KHzに合わせ、TinySAで同様に1600KHzの信号を出力します。バリコンの発振コイル側のトリマを回してトーンが受信できるようにします。最後に1000KHzあたりにバリコンを合わせ、TinySAで1000KHzの信号を出力し、トーンが最も大きく聞こえるようにアンテナコイル側のトリマを回します。

 この後、当地で受信可能なNHK第一、第二、AFN、TBS、文化、日本、ラジオ日本を実際に受信しながら、どの局もよく聞こえるようにアンテナコイルのボビンの位置、アンテナコイル側のトリマーを微調整します。

【写真5】IF帯域調整

6.最後に
 死蔵されていたゲルマTrはすでに煤けて黒くなっており、リードを磨かないと使えない状態でした。またPN接合が両方向導通していたり、ボソボソノイズが出るようになったものもありました。その中から良品を選び、Ni-MH電池2本で6石スーパーを動作させることができました(外観は写真6)。実用的な電源電圧範囲は2.2~3.2Vであり、この電圧範囲で消費電流は8~17mAでした。なお2.4V時には10mA、アルカリ電池を想定した3.0V時には15mAでした。今後、8Ωのスピーカーが入手できたら付け替えたいと思います。

【写真6】ゲルマTr6石スーパー外観
  【2023.02.25 7N4LXB 池田 記】

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