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KT0936による3バンドDSPラジオの製作  
1.KT0936DSPラジオチップについて
中華KTmicro社のDSPラジオチップKT0936は安価なポケットラジオでよく見かけるものです。AMではLW、MW、SW、さらにFMと小さな16ピンフラットパッケージのチップにもかかわらず色々なバンドが受信できます。チップにプリセットされたバンドに加えて、外付けのEEPROMでバンドや帯域幅をカスタマイズできるようになっています。

aitendoで安く売っていた[1]ので入手していろいろいじって遊べるラジオを作りました【写真1】。
またアマチュアバンドの受信も試してみました。 

【写真1】製作したDSPラジオ

2.製作するDSPラジオの要件
以下のような方針で作成することにしました。

(1)普段は2バンドFM、AMラジオとして使用できる実用的なものとする。
(2)デザインは先に製作したゲルマトランジスタ使用の6石スーパラジオと揃え、新旧技術の見た目の比較ができるようにする。
(3)ジャンパーの差し替えにより、SWも受信可能とし、3バンド程度の切り替えができるようにする。
(4)EEPROMのデータ書き換えによりFM、MW、SWの各バンドの受信可能周波数範囲や帯域幅等を変更可能とする。
(5)SWバンドの1つは半固定抵抗を調整することによりハード的にも受信バンドを変更できるようにする。

3.回路図と基板の様子
 KT0936のデータシート[2]によると、受信バンドは10番ピン(SPAN)に加える直流電圧を変化させて選択するようになっています。普通の2バンドFM、AMラジオを作る場合には特にEEPROMを接続する必要はなく、チップのプリセット値を利用すればよいです。

今回は設定をいじって遊べるようにするためEEPROMを追加しました。以上により作成した回路図を<図1>に示します。また製作した基板の様子を【写真2】(生基板にパタンをけがいた直後のもの)、【写真3】(部品実装後の基板裏面)、【写真4】(部品実装後の基板表面)に示します。 


<図1>KT0936 DSPラジオ回路図  pdfファイル


【写真2】パターンを描いた基板


【写真3】作成した基板裏


【写真4】完成した基板表

4.EEPROMによる起動ができない問題
中国語で書かれたデータシートの3.10項には、EEPROMの各アドレスの意味と設定値が書かれていますが、ここに記載されている値を単にEEPROMに書き込んだだけでは動作しませんでした。

どうもデータシートに記載されていないが動作に必要な設定値があるようでした。一度はあきらめかけましたが、手元にたまたまEEPROMを使用したKT0936のポケットラジオがあったので、これからEEPROMを取りはずして、PICkit2でデータを吸い出しました。

このデータと前記のデータシートを比較した結果、データシートには記載のないデータが書き込まれていました。吸い出したデータを別のEEPROMに書き込み起動するとバッチリ動作しました。
そこでこのデータを基にデータシートに記載のあるアドレスだけ変更することでいじって遊べるようにしました。
 
5.EEPROMによる変更可能な項目
以下のEEPROMの設定値が本DSPラジオの主な変更可能な項目です。( )内はHEX表示のアドレスです。

(1)周波数ステップ間隔(0x18、0x19):FMは200KHz、100KHz、50KHz、MWは1KHz、9KHz、10KHz、SWは1KHz、5KHz、9KHz、10KHzを選択可能です。
(2)AM通過帯域(0x62):1.2KHz、2.4KHz、3.6KHz、4.8KHz、6.0KHzを選択可能です。
(3)FMバンド下限周波数(0x94、0x95):32MHz~110MHzの範囲で選択可能です。
(4)FMチャンネル数(0x96、0x97):(1)で設定した周波数ステップ間隔でのチャンネル数をHEXで設定します。
(5)MWバンド下限周波数(0x98、0x99):500KHz~1750KHzの範囲で選択可能です。
(6)MWチャンネル数(0x9A、0x9B):(1)で設定した周波数ステップ間隔でのチャンネル数をHEXで設定します。
(7)SW1バンド下限周波数(0xA4、0xA5):1.75MHz~32MHzの範囲で選択可能です。
(8)SW1チャンネル数(0xC0、0xC1):(1)で設定した周波数ステップ間隔でのチャンネル数をHEXで設定します。

SW2~SW14もデータシート6.6.50項以降のように同様に設定できます。なおSW3~SW14の受信選択はジャンパー3を短絡して5KΩ半固定抵抗によりデータシートの表12の抵抗値となるようにセットします。データシートを見ると上記以外にもゲインなどを可変できるようですが、まだ試していません。 

6.おすすめの設定値
EEPROMの設定値を色々変えてみた結果、おすすめの設定値を示します。

(1)FMはワイドバンド対応では108MHzあたりまで受信可能ですが、関東では日本放送の93MHzまで受信できればよいです。95MHzあたりまで受信可能となるようにFMのチャンネル数を少なく設定するとチューニングダイヤルの操作がしやすくなります。

(2)AM通過帯域は狭くすると籠ったような音になるので、3.6KHzあたりを選択するのが聴感上よいと思いました。

(3)MWの周波数ステップ間隔は1KHzにすると、アナログラジオをあまり変わらないフィーリングでチューニングできます。

(4)SWもMW同様に周波数ステップ間隔は1KHzがよく、バンド内の受信周波数範囲を広げない方がチューニングしやすいです。

7.アマチュア無線の受信テスト
アマチュア無線の受信について以下を試してみました。

(1)AMは50MHzAMの受信のため仕様上の設定範囲である32MHzを超える値に設定してみましたが、正常動作せず受信できませんでした。

(2)FMは50MHzFMの受信を試しました。EEPROMでの設定によりFMの周波数ステップ間隔を50KHz、FMバンドの受信範囲は50MHz~52MHzとなるように設定しました。アマチュア無線でのチャネルは20KHz間隔ですが、製作したラジオはステップ間隔の最小値が50KHzなので、100KHz毎の飛び飛びの受信が可能でした。
またアマチュア無線の方が最大周波数偏移が小さいためかDSPラジオでの復調音は小さく、ボリュームを上げる必要がありました。スケルチが備わってないので、受信していない時には大きな雑音が出て実用的とは言えませんでした。

(3)FMは仕様上の設定範囲である110MHzを超える145MHzの受信も試しましたが、受信できたり、できなかったりで安定した受信はできませんでした。

その他7MHzの交信をワッチするとSSBのモガモガ音が受信できましたがSSBを復調する機能はKT0936には残念ながらありません。


8.おわりに
前回は半導体式では最古の部類となるゲルマトランジスタを使用した6石スーパー、今回は最新技術によるDSPラジオを連続して製作しました。全く異なる方式のラジオを連続して作ると技術の進化を実感できます。

DSPラジオチップには高度なアナログ、デジタル技術が詰め込まれていますが、完全なブラックボックスであり、簡単な配線でハードは完成してしまいます。設定だけで色々な機能を持たせることができ、受信感度も特にFMはなかなか高感度です。しかしAGCのスムーズな効き、チューニング感覚、電池の持ち(消費電流が約3倍違います)ではアナログ式がまだ優れています。

ブレッドボードを使えば高機能なラジオが、無調整、安価、お手軽に完成しますので、ラジオ製作会の新たな題材になるのではと思いました(製作してみたいYBQ会員の方がいましたら情報提供しますのでご連絡ください)。

参考資料
[1]https://www.aitendo.com/product/19053
[2]
http://aitendo3.sakura.ne.jp/aitendo_data/product_img/ic/radio/KT0936M-B9/KT0936M_B9_V2.2.pdf
  【2023.05.07 7N4LXB 池田 記】

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