◇ 投稿記事 ◇ 7N4LXB ⑱ |
IC-202の修理と改造 |
1.IC-202の入手と逆接事故 |
144MHzSSB/CWトランシーバIC-202は、40年以上も昔に登場した送信出力3Wのポータブル機です。アナログ式VXOには水晶発振子が4個搭載されており、これで200kHzずつ144.0MHzから144.8MHzをカバーします。エアバリコンを使ったチューニング機構も精巧にできており、最近のマイコン制御のDDS方式にはないメカニカル感があります。鈴木会長宅からいただいて当局に来たときはCW送信で0.5Wしか出ない状態でしたので、送信回路のトリマーやコアを調整し、2Wが得られるところまで回復させました。この辺りで無理をせず止めとけばよかったのですが、更に弄っていると、うっかり電源逆接をしてしまい、本当に故障させてしまいました。電源回路には逆接防止ダイオードが入っているので安心していましたが、何とこれがショートしていたのです。IC-202の電源ジャックは、外側電極が+の逆極性であるため、プラグを差し込む際、時々外側電極が-電位の筐体と接触し、スパークが飛んでいました。このような電流が継続的に逆接防止ダイオードに流れて故障させたのだと思います。
慌てて動作確認してみると、送信も受信も出来なくなっていました。故障個所を調べてみると、電源電圧が直接かかる素子がダメになっていました。送信回路ではドライバー段のTr(2SC998)、終段Tr(2SC1947)、受信回路ではオーディオアンプIC(uPC575C2)の3つが飛んでいました。レギュレータを介して電源供給されるVXOやSSBジェネレータやレギュレータそのものは大丈夫でした。
折しもコロナ感染拡大中のため緊急事態宣言が出ており、部品を買いに行けないため、手持ちの部品で直せないか考えました。
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2.修理・改造計画 |
送信回路・受信回路の修理と合わせて、以下の改造を行うことにしました。
(1)逆極性ジャックの正極性化
故障原因(人為ミス)の根本的解消、二種類の電源プラグを持たなくてよくなります。
(2)アンテナ端子のBNCコネクタ化
Mコネクタより扱いやすいBNCコネクタが使えるようになります。
(3)メーターランプのLED化
電球切れの心配がなくなり、少しだけ節電でき電池駆動時に有利です。
(4)電池のLi-ion電池化
単2電池9本用の巨大な電池ボックスが内蔵されていましたが、現代風にします。
(5)サイドトーン回路の追加
自分の打鍵を音で確認できるので、CW初心者でも安心です。
(6)外部オシレータ入力端子のオーディオ入力端子への変更
使う見込みがないので廃止して、オーディオアンプの入力端子とします。
一方、送信回路・受信回路の修理は以下のように行うことにしました。
(7)送信アンプ回路の修理
手持ちのトランジスタを利用します。まず、壊れたドライバー段Tr、終段Trを取り外した跡に、ジャンク箱から出てきた小信号増幅Tr(2SC1908)、1WクラスTr(2SC1970)を取り付けて、小信号増幅段、ドライバー段を構成します。次に、RD15HVF1を使用した終段を、新たに基板を起こしてドライバー段の後に接続します。以上の3段の送信アンプにより、無事だったミキサーからの出力(数mW)を3Wまで約30dB増幅します。1段当たり約10dB増幅すればよいので無理なく実現できるのでは、という計画です。
(8)受信オーディオアンプ回路の修理
手持ちの出力1W程度のオーディオアンプICであるNJM386を使用します。ちょうど壊れたuPC575と同じDIP8ピンなので、若干周辺回路を変更をすれば差し替えることができそうです。送受信切り替え時のブツッ音を消したり、送信中にミュートさせる方法が課題です。
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3.修理・改造作業 |
修理・改造作業を行いながら具体的な実現方法を考えました。以下がその概要です。
(1)逆極性ジャックの正極性化
逆極性を正極性に変更すると、電源と電池の切り替えにおいて、電池のマイナス側の接続を切り替えることになりますが、正極性に変更しても実用上全く問題はありませんでした。プラグを差し込むとき筐体にショートすることもなくなり、安心して電源と電池を切り替えることができるようになりました【写真1参照】。
(2)アンテナ端子のBNCコネクタ化
BNCコネクタはMコネクタより径が小さいため、筐体の穴への留め方が課題でした。BNCコネクタ用の穴をあけた1mm厚のアルミ板2枚でMコネクタの穴を挟み込むことで固定しました【写真1参照】。
(3)メータランプのLED化
昔ハムフェアで入手した電球色LEDチップを利用しました。3つのチップを並べて+-の電極同士をハンダ付けし、電源を加えて適当な明るさになるように電流制限抵抗を入れます。さらに元の電球と同じような形状になるようにリード線をつけます。今回利用したLEDの順方向電圧降下は3V弱、1kΩの抵抗を加えて5mA流すようにしました【回路図1参照】【写真2参照】。
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【回路図1】 |
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(4)電池のLi-ion電池化
ハンディーカムの7.2VのLi-ion電池がたくさん手もとにあるので、これを使えるようにしました。アルミ板を加工して2本収まる電池ボックスを作り、元の電池ボックスの位置に両面テープで貼り付けました【写真3参照】。充電は電池を取り外して専用充電器で行います。 |
(5)サイドトーン回路の追加
ネットに出ていた移相方式の発振回路を参考に作らさせていただきました【写真3参照】。
(6)外部オシレータ端子のオーディオ入力端子への変更
本来は外部オシレータをVFOとして使えるようにする端子です。音量ボリュームにつないで、IC-202を簡易オーディオアンプとして使えるようにしました【写真3参照】。
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(7)送信回路の復旧
まず、終段の基板を起こしました。片面生基板にパタンをカッターでけがき、不要な銅箔をニッパーでつまんで剥がします【写真4参照】。簡単なプリント基板はこの方法で作っています。これだとエッチングで出る廃液処理の必要がありません。部品を実装した終段アンプです【回路図2】【写真5参照】。入出力のマッチング回路のL、Cの値(回路図の()の中の数値)はスミスチャート計算ソフトMr.smithを使って見当を付け、これをカバーするような値のトリマーを部品箱から探してきます。 |
【回路図2】 |
【写真5】 |
次に、1段目の小信号増幅段、2段目のドライバー段ですが、交換後のTrに合わせてバイアス回路を変更しています。抵抗などの値を変えるため部品を付け替える際には、基板を筐体から取り外す手間を省くため、元の部品を足を残して取り除き、その足に交換後の部品の足を接ぎ木するようにハンダ付けする手抜きをしています【写真6参照】。
(8)受信回路の復旧
ネットで調べると、NJM386の入力端子にDCを加えるとミュートできるようでしたので、この方法を採用させてもらいました。 |
4.保証・工事設計の変更 |
電波を出せるようになるには保証と工事設計の変更申請が必要です。今回は送信アンプを改造した改造機としてTSSに保証を依頼しました。保証料は4000円(+振込手数料220円)かかりましたが、TR-9000と合わせて行いましたので、半分で済んだ計算です。提出資料は送信機系統図と、改造個所の説明資料1枚でした。Web申請して手数料を振り込むと、1週間で保証が完了しました。
工事設計の変更は、関東総通に電子申請Liteで申請しました。こちらは手数料はかかりませんが、審査完了まで3週間以上もかかりました。なお免許状記載事項に変更ない場合は、電子申請Liteで審査完了を確認して終わりです。移動局の証票が廃止になったので、これをもらうために返信用封筒を送る必要がなくなりました。
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5.おわりに |
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ダミーロードでの送信試験の様子です【写真7参照】。電源電圧13.8Vで3Wの出力が得られており、このときの全電流は650mAでした。IC-202の仕様では約750mAですので、改造により100mA省エネとなりました。なお、RD15HVF1のアイドリング電流について、データシートには500mAのデータしか載っていないので、これ以下でちゃんと動作するか不安でしたが、3Wの出力では150mAまで絞っても大丈夫のようでした。また実際に何局かに交信していただき、変調音もクリアであるとの報告をいただきました。
数ワットクラスの自作トランシーバの終段に使えるTrが次々と入手困難になったり価格が高騰したりで、自作派にはきびしい状況となってきています。今回使用したRD15HVF1などのMOSFETは比較的安価であり(サトー電気で400円くらいで入手できる)、また簡単なバイアス回路で熱補償も必要なく、丈夫ですので、従来のTr以上に終段用デバイスとして活用できるのではないかと思います。
最後に、JH1OHZ片倉さん、JH1DII鈴木会長に試験電波のワッチとSDRの観測でご協力いただきました。ありがとうございました。 |
【2020.09.01 7N4LXB 池田 記】 |
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